人間の運命:①

 大変に恥ずかしいことながら、自分自身の回想を数回やってみる。 
 私は宮城県南端近くの町で、太平洋戦争の始まる少し前に生まれた。弱々しい少年時代を過ごしていた。成人するのは難しいだろうと見られていたのである。70歳近くになった私を奇跡のように見ているご町内のオバサンもいる。今も弱いことには変わりがない。元気のいい弟がいた。私が泣かされてくると、仕返しをしてくるのだった、残念なことに終戦直後の伝染病で亡くなった。

 戦後、私の家は広い敷地はあるものの、お金は一切なく、父も昭和19年に病死したので、母の苦労は並大抵ではなかった。
 担ぎ屋などもやった。鶏卵を買い集めて、仙台に売りに行くのである。僅かな手数料を稼いでいた。そのかたわら田畑を耕し、少しばかりの米を供出したりしていた。

 当時は皆が貧乏だった。中学を卒業してそのまま就職する人も三分の一くらいはいた。大学にゆくなどとは考えもしなかった。それでも志のある同級生は、そんなことにもめげず、頑張りながら進学校に通い大学に入り、後に県会議長になって今や引退を考える年齢になっている。

 私は高校まではということで、就職の容易な商業か工業の学校を選ぶしかなかった。結局は従兄のいた県立工業電気科に入り、教科書などをそのまま譲り受けたのだった。

 就職もこれまた地元でということで、仙台の金属製造会社に入ったのである。だが一年、二年と過ぎるうちに、毎日同じことの繰り返しで、さすがの私も飽きてきた。このまま定年まで通うのかと思うと憂鬱な気分になった。
 しかし、ここで思わぬ運命が待ち受けていた。当時の鉄鋼業は急速な成長産業だった。技術者が不足していた。鉄鋼会社が自ら学校を設立して、中堅技術者を養成しようというものだった。
 関東と関西に一校づつ設立する計画だった。まずは関西からと尼崎市の北部に建てられた。在職中の会社も小なりとはいえ、鉄鋼連盟の一員だったので、3名の割り当てがきたのである。私は、その第二期生として運良く入学できたのだった。関西鉄鋼短期大学といった。
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Commented by moai at 2009-10-15 09:12 x
watariさんの生い立ち興味深く読ませてもらいます。さらに短大時代、その後の仕事を通してのwateriさん像公開に期待しています。
短大時代は交流もなかったのに、こうしてブログで交流するようになったのも御縁、これもwatariさんmorikouさんのおかげです。
Commented by クオリア at 2009-10-15 13:26 x
金属一筋で過ごされたのですね 素晴らしいことだと思います。
日本の鉄鋼は世界一ですその一翼をになった回想さんに拍手
Commented by ようこ at 2009-10-15 19:26 x
watari41さんの自叙伝、興味深く読み始めています。博学でおだやかなお人柄のwatariさんが、どんな山や谷を乗り越えていらっしゃったのでしょうか。
たしかに戦後は貧しかった。戦後生まれの私ですら、しもやけの出るような子供時代でした。幸い、お金ではそんなに苦労したことはありませんが、贅沢な暮らしはしていませんでした。

第1回だけ読んでも、心にしみました。楽しみです。
Commented by watari41 at 2009-10-16 11:15 x
うまく書けるかどうかわからないのですが、思いっきり飛び込んでみました。もともと書くことを大の苦手としていたので、moaiさんのように上手にいろんなこと表現できるかどうかがわかりません。
機体はずれでしたらゴメンナサイ。コメントをありがとうございます。

クオリアさん、日本の鉄鋼業界からみれば、私はほんの片隅の方で、もそもそとうごめいていたにすぎません。コメントをありがとうございます。

ようこさん、自叙伝というのは難しいんですね。福田前総理のように自分を客観的に眺められないと、その人の単なる自慢話に終わってしまうこともあって面白くないのですが、多少は自慢めいたこともさせてもらいましょう。コメントをありがとうございます。
Commented by M at 2009-10-17 00:21 x
はじめて知ることもありました。そうだったのですね。私達の世代にはわからない苦労がたくさんおありになったと思います。今の子供達は幸せですよね。改めて考えさせられました。ありがとうございました!
Commented by watari41 at 2009-10-17 13:45 x
 私の母屋の隣棟で生まれ、その翌年に私はは尼崎市に旅立ったんですね。ですから2,3歳頃のMさんを私はあまり見ていないんですね。瓦屋さんの向こうの方の農家を回って、卵を買い集めて、仙台行きの汽車に乗っていったんです。私もついて行ったことがあります。コメントをありがとうございます。
by watari41 | 2009-10-14 22:15 | Comments(6)