価値の転換

 2009年10月1日は、記念すべき判決が出た日として記憶されるかもしれない。「鞆の浦の景観を守れ」というものだ。これまでの裁判では人間の利便性、経済的効率などが優先されてきた。だが、もっと「価値」あるものがあるという判決なのだ。
 我々は、これからもう一つの近代史を経験することになるのかもしれない。それは既に始まっているかもしれないが、さらに加速されていくものなのだろう。

 トフラー夫妻が「富の未来」という著作で、将来の富は「知」であると言っている。これまでの富も人間の知によってもたらされたことは言うまでも無い。工業社会とか金融社会などだ。しかし未来は「知」やボランティア活動がもう一つの大きな市場になっていくのだという。
 日本では堺屋太一さんが「知価革命」という著作で、同様な論を展開している。「ブランド」などが今や巨大な知価であり、その冠を記した商品は絶大な価値を持つ。

 裁判官もそんな社会的変化を感じ取っているのだろう。「鞆の浦の景観」に価値ありとの判断である。アニメの宮崎監督は、その風景を見ながら「崖の上のポニョ」という作品を構想し、何百億円も稼ぎだした。その景観が創作意欲を刺激したのである。埋め立てられた鞆の浦では、芸術家の意欲を削いでしまったであろう。景観も知の価値と密接な関連があるといえそうだ。

 過去の富は普遍のものとして文化財に指定されている。しかし日本人がその価値に気のつかない時代があった。明治維新の廃仏棄却の時である。外国人のフェノロサに指摘されて、仏像美術の価値を再認識したのだった。だが、もはや日本も世界最先端をゆく国家であり、先の裁判のように毅然たる判断ができるようになったようだ。

 さて、トフラー夫妻のいう「知」の未来についてだが、我々は漠然たる概念を抱くことはできるが、具体的にいまひとつわからないところがある。私の頭がもはや固定観念化してしまっているのかもしれない。知的財産といえば、「工業所有権」「商標権」とか「著作権」しか思い浮かばない。知といえば脳である。21世紀の脳研究と密接な係わり合いがあるような気はしているが。
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Commented by moai at 2009-10-04 09:28 x
人の価値観は時代そして豊かさによって信じられないほどに変化するものですね。そして我々凡人はまたそのことに気付かず過ごしています。
明治維新の直後今世界遺産の姫路城が無用の長物とされ、競売にかけられ金物商の競り落とされ一時は解体して鉄と瓦を売る話になっていたといいますからいま思えば無茶な話ですが、当時維新の風に吹かれてそのような状況になったのだと思います。心すべき話ではあると思います。
Commented by watari41 at 2009-10-04 16:06 x
宮城の白石城は、解体され売られました。平成になって、木材で新築再建されましたが小さな城ですが10億円以上かかっています。
今やかつての城主・片倉小十郎ブームで全国の歴女が集まってきてます。今日の新聞には、大阪夏の陣の戦いで有名な真田幸村との「道明寺の戦い」が白石城内の広場で再現されている写真が出てました。小十郎はこの戦いのあと大阪落城の時に幸村の娘を預かるんです。
白石市は、BASARAというゲームによって、moaiさんのいうように信じ難いような価値を手にいれました。コメントをいただきありがとうございます。
Commented by ようこ at 2009-10-04 17:07 x
「鞆の浦の景観」の裁判の結果で、開発に活気を見出していた今までの時代とは明らかに変わり、日本も文化や景観を大事にするようになってきた変化に気づかされました。
町中は渋滞がひどいらしいので、がっかりした人も多かったでしょうが・・・。
「富の未来」「知価革命」も、我が家にもあると思うのですが、読んだことがありません。
watari41さんは、読書の幅が広いですね。
Commented by watari41 at 2009-10-04 21:16 x
時代の空気が変わってきていますね。本に書いてある通りにはならないのでしょうが、10年後、20年後に現在を振り返れたら面白いだろうなと思うことがあります。
私の読書傾向は逆にいうと、こんな系統のものしか興味がないので、狭い範囲しかないのかとも思っています。ようこさんコメントをありがとうございました。
Commented by schmidt at 2009-10-05 11:29 x
 確かに「知」については、まだまだあいまいな事柄が多いですね。困ったときには「知恵」という言葉を思い浮かべるようにしています。トフラーが言うことからは、ずれるかもしれません。

 風景を破壊しても、暮らしの便利さを追い求めるか、お金がかかっても山側ルートの道路という選択肢をとるか。その「知恵」が試されているときであり、知恵ある選択をした時点で、その先に、トフラーが言う「知」の可能性が見えてきます。あの判決では、地元の人々の生き方自体が左右されるので、厳しいものだとは思います。しかし、その厳しさも、いろんな知恵を出し合うことで解決できるはずです。ダム問題もしかり、ではないでしょうか。
Commented by watari41 at 2009-10-05 20:49 x
 東京オリンピックの時にはムチャクチャなことをやってますね。日本橋の上に高速道路を通すだとか、そんなこんなが今度の東京開催に日本人の50%しか賛成を得られていないという根本原因があると考えています。40年過ぎてそれだけ賢くなってきているんですね。

 schmidt さんが言うように「知」と「知恵」との違い、考えれば面白いことです。人類が「知」の社会に辿りつくまでには、いろんなことがあるんでしょうね。これまでのトフラーさんの予言はいずれも世界にインパクトを与えるものでした。「未来への衝撃」「第三の波」など。私も「知」を体験できるまで生きてみたいものです。コメントをいただきありがとうございます。
Commented by 白塔会九州支部HP管理人 at 2009-10-07 12:52 x
watari41 さん、はじめまして。
楽しいブログ、いつも拝読させていただいております。
この、素晴らしいブログを鉄鋼短大OBの方々に一人でも知ってもらいたく、当HPに、OBブログのLINKコーナーを作りました。
それから、当HPにゲストブックを設置しておりますので、自由に書き込みください。
それでは、これからも、よろしくです。
Commented by watari at 2009-10-07 17:39 x
 恐れ入ります。LINKをはっていただきありがとうございます。九州支部にはさぞ大勢の方々がいるんでしょうね。
鞆の浦の福山にもこれまた多くの人達がいるんだと思います。はるか東北の地より勝手なことを書いております。
 同窓会の方よりコメントをいただくのは、大変にうれしいことです。北九州の管理人さん、ありがとうございました。
Commented by クオリア at 2009-10-08 15:53 x
日本もようやく心の時代に気がついたようです。先人の残した風景は残し時代に引き継ぐことは非常に大切なことだと思います。
審判どおりになることを祈らざるをいません。
Commented by watari41 at 2009-10-10 15:28 x
 先人の残したものを、あっさりと捨て去る風潮は嘆かわしいことなのですが、ようやく歯止めがかかりそうですね。
国の方向もそんな風になってきてますね。クオリアさんコメントをありがとうございます。
by watari41 | 2009-10-03 10:38 | Comments(10)