自然体と無心

 ムツゴロウさんが、10年ほど前のことだろうか。テレビ番組で猛毒の蛇がうごめくカゴに手をつ込んでいたことがあった。ヒヤヒヤして見ていたが、無事に手を引き上げた。こんな芸当が誰にでもやれるわけはない。ムツゴロウさん曰く、無心になり自然にふるまえば毒蛇も違和感をもたないんだと。無理なくできるようになるには、動物好きに加えて相当な努力が必要だったのであろう。

 自然体とか無心になるというのは、言葉でいうほど簡単なことではない。我々は何をやるにしてもギコチなさがでる。

 私は恥ずかしながら、剣道を少しやったことがある。この道の達人で大正から昭和にかけて剣聖と言われた佐藤忠三さんという方がいる。山形県鶴岡の出身で京都で剣を学び、後に仙台に住むことになった。昭和40年代、先生は70歳を過ぎていただろう。仙台で大学の剣道師範をしていた。その学校からの新入社員がきた。馬力のある3段だった。先生の教えを受けてきたと言うので、どんな感じなのかと尋ねてみた。彼曰く「どんなに強く打ち込んでもフンワリとそらさらされてしまう」のだという。相手の重心をわずかに外したところで受けられるのだろう。そんなことは理屈で分かっていても、瞬間的な動作でできるわけがない。「無心」の状態で相手が良く見えて体が無意識に動くのだろう。
 その佐藤先生の若いときの修練たるや、すさまじいものだったということを聞く。晩年は大会があると必ず和服姿で出席される。その先生を目の前にして、私は試合をしたことがある。ガチガチになって冷や汗ものだったことを回想している。

 柔道では、神様とも言われた三船久蔵「十段」がいた。岩手県久慈市の出身だ。小柄な体ながら「空気投げ」というのをあみ出した。柔道衣を持った両手以外に、自分の体を使わずに相手を投げ飛ばすと言う業である。三船さん以外には出来ないだろうと言われている。本人はあくまで自然体で相手のバランスが崩れるように仕掛けて、動揺したところをみて投げるんだという。
 
 相撲にしてもしかりである。横綱の相撲というのはそんなものだ。態勢を崩すことがない。あれが相撲の自然体なのだろう。集中力はすなわち無心ということでもあろう。野球にしても同様なことだ。

 稀なる才能に恵まれ、努力した人達を見てきたが、我々凡人は常に不安と動揺に晒され続けている。自然体で相手に向かうことも難しい。修行が足りないということになるのだろうが、これから先に、どんな行き着くところがあるのかを、遅まきながら考えてみたいと思っている。
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Commented by ようこ at 2009-06-12 21:49 x
「自然体と無心」のテーマとは、ちょっと離れますが、介護にも楽に病人をベットから起き上がらせたり、車椅子に移したりすることができる技があるようです。
高齢の方や女性の人が、体格のいい人を楽々持ち上げていた番組を見ました。
柔道の技と介護の技術に共通点があるような気がしてきました。
Commented by クオリア at 2009-06-13 08:45 x
watari41さんは凡人ではありません。
無心になれると心がけることが大切かと思います。
驚きの力が人は出せる無意識に 天からあたえられた気だとおもいます。
Commented by watari41 at 2009-06-13 10:58 x
介護人が力を使わずに起き上がらせることなどを、テレビでやってましたが、これはあくまで相手が「静」の場合なんですね。
いろんな格闘技のように絶えず動いていて、重心の変化がある場合には難しいようですね。ようこさんコメントをありがとうございます。

クオリアさん「気」というのが確かにありますね。これを如何にうまく掴むかということかと思っているんです。
しかし、私ら凡人にはなかなかできることではありません。コメントをいただきありがとうございます。
Commented by michiko at 2009-06-13 17:09 x
稀なる才能の持ち主も各分野にいらっしゃいますが、我々の周りにも優れた特性をお持ちの方が多くいらっしゃって尊敬の念をいつも感じます。
ただ無心になるというのは、どんなことなのか今まで経験がないのでわからないのです。
Commented by watari41 at 2009-06-13 20:32 x
何も考えずに相撲をとれたとか、無心でバットを振れたとか、よく聞くことです。座禅などがよく無心の状態になることだなどと言われますね。私もまだ無心とか自然体というものを経験したことがありません。生きているうちに一度経験したいものです。michikoさんコメントをありがとうございました。
Commented by moai at 2009-06-16 09:16 x
自然体、いつも気にしている言葉です。人との付き合い、仕事、趣味万事に自然体が一番ではないかと思っているのですが、最近でも碁会所で上位者から「あんた最近肩に力がはいっとるよ」と諭され、すっかり見透かされていたような気分になったことがあります。
ゴルフでも終わったことは引きずらず、次に向けて分をわきまえた戦略を立てられるときは良かったように思いますが、いつまでたってもこの”自然体”ができません。だから面白いともいえるんでしょうが。
Commented by watari41 at 2009-06-16 16:39 x
 肩に力が入るんですね。moai さんは私よりもだいぶ囲碁は上のようですが、もっと上の人からみると、そういうことになるんですね。ついつい実力以上のことをやりたくなってしまうんですね。それが私ら凡人の習いなんでしょうが、この歳になったら、そこを越えようなどと思わないことが、肝要なのかもしれませんね。コメントをいただきありがとうございました。
by watari41 | 2009-06-12 11:25 | Comments(7)