金属は遥かに(1)

 40年間、いろんな金属に触れてきました。
1960年代の電話機はずっしりと重いものでした。外側のプラスッチクを一皮剥くと中味は、当時としては最先端の金属がぎっしりでした。

 ベルを鳴らす磁石、音声を伝える受話器にはコバルトと鉄の合金を使い、如何に音質を向上させるかなどの工夫をしていたものです。
これらは今や薄っぺらなセラミックス1枚が担っているのです。

 携帯の時代になって、信じがたいほどに電話機は軽くなってしまいました。
金属はアンテナだけになってしまったようです。

 20年ほど前からでしょうか、金属はダサイということが若者たちの間で言われはじめたようです。いち早く反応したのが学校教育で学生が集まらないからと、材料工学などという名前に変更してしまいました。

 時計も金属のバネで動いていました。時間が狂うのはバネの強さが周囲の温度によって微妙に変化するのも一因です。私は触れませんでしたが鉄、コバルト、ニッケルなどの調整によって狂いをゼロにする挑戦がなされたものです。
今や水晶によるクオーツ時計は、狂いなど考えられなくなりました。

 金属は時代を担いながらも、私の現役中から次々と歴史の彼方へと消え去り、やがては跡かたもなくなるのではと思う今日この頃です。
時代の流れとはいえ、寂寥感というか無常を感じています。


金属は遥かに(2)

 DVDには、ほとんど金属が使われていない。その前のVTR時代には、まだ私の関係した金属の名残があった。
 VTRから音声信号を呼び出したり、書き込んだりする「磁気ヘッド」である。これは、モリブデン、ニッケル、鉄などを混ぜ合わせて造った金属なのだ。
 金属はアナログ時代のものだったのかもしれない。レコードの蓄音機の先端にも、雑音を拾わないようにとシールド性能をもった金属でレコード針の周囲を覆っていたのである。
 デジタル時代で、金属の役割は終えたのかもしれない。CD、MDから光へと移り、金属はアナログと共に懐かしの彼方へと去ったのかもしれない。
 1970年代末までは、電気機関車の速度を変えたり、エレバータを所定の位置に止めるなどの制御機器にも金属は活躍していた「磁気増幅器」という、ニッケルと鉄から造る金属を扱っていた。こんなことを知っている人も少なくなってしまった。
 これらの機能は、今や半導体が担っている。現代は半導体万能の時代なのかもしれない。発光ダイオードなども半導体だ。光の分野に革命をもたらしている。

 物騒な話ではあるが、前述の「磁気増幅器」は、第二次大戦の末期にドイツが作ったV2ミサイルロケットの制御のために開発されたのだという。戦後はこれを作った人たちがアメリカで人工衛星や月ロケットを作っている。
 このため、私も関係したこれらの金属は、ある時期まで戦略物資の指定を受け、対共産圏輸出統制(ココム)で厳しく監視されていたのも懐かしい思い出である。
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# by watari41 | 2004-05-22 20:16 | Comments(1)

自己紹介

 「老人は過去を想い、若者は未来を語る」

 誰が言ったことかはわかりませんが、印象に残る言葉です。
1941年生まれなので、そんな歳ではないのですが今年(2004)に大病(前立腺癌)
を患って以来、昔のことが妙に去来するようになりました。

 私は、いっぱしの金属技術者のつもりでした。
とはいってもそんなにカタイものではありません。40年前に入った会社がいろいろな金属製品を造っていたので、門前の小僧ではないのですが知らずのうちに覚えさせられました。

 昭和30年代から40年代にかけては金属の全盛時代でした。
「鉄は国家なり」と大言壮語した鉄鋼会社の社長がいたくらいです。
だが今や見るも無残で、多くのものが博物館でしか見られなくなってしまいました。

 入社した頃は真空管に使うニッケルを扱ってました。それこそ当時の電子工業の花形製品でしたが、まもなくトランジスタにとって変られてしまいます。
今も趣味で使っている人はいるのでしょうが、過去の遺物です。
これから、この欄でこんなことを書こうと思っています。

 藤沢周平の名作に「三屋清左衛門残日録」がありますが、隠居した主人公が武家社会と係りながらも趣味を持ち、家のためにも働くという理想的な余生が書いてありますが、これにあやかりたいと思い「余日録」としました。
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# by watari41 | 2004-05-21 15:55 | Comments(4)