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余日録


by watari41

金属の原子

金属の原子_a0021554_1912592.jpg あらゆる「物」は、どこまでも細かくすると最後には、その「物質」特有の「原子」というものに到達する。こういう概念は2千年も前のギリシャ時代の人たちが既にもっていた。
 しかし実際に人類がその目で見たのは、現代になってからのことである。原子は組み合わさって分子を構成したり、結晶構造を持つ。図は鉄の結晶格子を示す。各頂点と真ん中に原子が存在する(黒丸がそうである)。原子と原子の間(a)は、単純に原子間距離と呼ばれたり、または格子定数ともいわれる。その値は、鉄が2.87オングストローム:Å(10のマイナス8乗メートル)という微小な単位である。在職中に鉄にいろいろなものを混ぜ合わせる実験をしていたことがある。例えばシリコンである(格子定数=5.43Å)。この量を増していくと鉄は硬くなっていく。これはお互いの格子定数が大幅に異なるので結晶格子が歪んで硬くなるのだ。少しややこしい話になってきた。

 鉄に重量比で1%のシリコンを入れるのは、実は原子の状態では、およそ2%が混じていることになるのだ。どうしてかというと、「原子量」のちがいによるからである。鉄の原子量は約55、シリコンは約28という値だからである。いろんなものを混ぜる時は、予め原子での比率を考えておき、実際の作業は重量での比率なので、逆算するようなことで、実験を進めるのである。

 私が在職した会社では、優れた磁気を持つ材料を扱っていた。「センダスト」という世界に有名な材料がある。昭和10年頃に東北大の増本量博士が発明した。鉄(Fe)が85%、シリコン(Si)9.5%、アルミ(Al)5.5%の重量比率から成るものである。これは原子のレベルでみると「Fe3SiとFe3Al」という、きわめてうまい組み合わせが出来ていることによると考えられている。

 だが、この金属は石のように硬くて脆い、砕いて粉にするしかないのである。仙台で発明され、粉(Dust)でしか使えないのでセンダストと命名されたというのである。アルミもそのままでは軟らかい金属なのだが、格子定数が約4Åなので、これまた鉄を硬くする要因なのである。

 昭和の初期に、磁気材料を作る理論がわかっていたわけではなくて、あらゆる組み合わせをつくり、おびただしい数の試料を作成して、労力をいとわずに測定をしたというのである。こんなやり方を「ジュウタン爆撃方式」の実験と称していたのである。当時の実験助手だった方の回想談を聞いたことがあった。
 後年に、優れた磁気材料の理論が明らかになり、コンピュータが発達してからのこと、オランダの研究所で計算したところ上記の「センダスト」にたどりついたという逸話がある。デジタル時代であるが、またセンダストには何かの用途が出てくるかもしれないと思っている。
by watari41 | 2008-02-21 19:23 | Comments(0)