グリコカリックス(糖衣)

 20年ほど前のことだった。
 仙台の自然史博物館に人体の血管標本の特別展があった。3名の初老男子標本である。
 名前の記載もあった。中国人ではなかったかと思う。死に際して標本となることを納得した人物のものであるという。
 顔そのものは生前の姿であったが、全身の臓物が抜き取られ、心臓と血管のみを残したものである。細かいところまで見事に再現してある。標本は立ち姿であった。皮膚の部分は透明化され、網の目の如き動脈は赤く、静脈は青だった。
 実際の人間であるから、長く見ていると気持ちが悪くなるようだった。
 人間の血管の全長は10万kmにも達するというのだから驚くしかない。もちろん、その95%は毛細血管が占める。

 大動脈の断面構造は3層で守られている。細動脈は2層、毛細血管は内膜のみの一層で内皮細胞そのものとされる。その内側血管の血流に接する内皮表面にグリコカリックスと呼ばれるものの存在は知られていたが、電子顕微鏡によって、その姿が撮影された。北里大学の東条さんという先生である。繊毛の如き誠に細かいものであるが、重要な役目をもっているようだ。
 太い冠動脈にももちろん存在し、これが欠落すると血流は内膜の表面で乱流となり、内膜が損傷し、3層の壁内に血液が侵入して解離性大動脈りゅうの原因になるとも考えられる。

 こんな話を聞いたのは、先日の講演会で、長寿で名高い長野県の上田市を拠点に全国的な栄養士活動をされている中村さんという女史でる。震災前にも人間の食物にかんする栄養上の講義を受けたことがある。

 健診では、血液検査がなされるが、これは食習慣の結果の表示であるとともに、これからは血管の状態もどういうことになっているかの情報も解析対象になってゆのだろう。
 大阪駅前で大事故となった、運転者の解離性動脈も何らかの予兆が見つかる時代がくるのであろう。
 栄養と病気、血管の状況など多面的なつながりが研究されることだろう。
 人に話を理解してもらい、印象に残るようにするのは、なかなか難しい。中村女史はその目標に向かって努力されている。数年前に比べると著しくわかりやすく、魅力的な話をしていただけたものと思っている。

 

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by watari41 | 2016-02-27 23:13 | Comments(0)