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余日録


by watari41

全体主義

全体主義_a0021554_15304765.jpg  20世紀最悪とされる「ナチズム」がドイツで何故に強大な勢力を得て戦争に突入したかが克明に書かれている。
 ヒトラーは哲学を好んだのである。
 「ニーチェ」の都合の良い部分を、都合よく解釈して思想的なバックボーンとしたのである。もちろん中途半端なものでしかないのだが、それを「ハイデガー」など現在でも超一流とされる哲学者が強力に支持して、裏づけをしてくれたのである。

 ドイツには、もともと反ユダヤ的な風潮が根強くあり、それにうまく乗ったというのである。当時の国民から熱狂的な支持を得たのである。
 反対にユダヤ人哲学者は、次々に職を追われ、戦争がはじまると共に600万人ものユダヤ人がガス室に送り込まれた。
 あと一年ほど終戦が長引けば、ヨーロッパからユダヤ人が消えたであろうと言われる。

 戦後、連合国によるニュルンベルグ裁判があり、ナチスの首脳は罪を得たが「ハイデガー」などの哲学者は、当時の社会風潮からしてやむを得なかったと弁明して罪に問われなかった。
 しかし当時の迫害された学者の書簡などからは、その哲学がナチズムの立役者であることを物語る記述がある。今尚、ドイツでのユダヤ嫌いの底流は脈々と受け継がれており、再び復活の可能性が恐れられている。
 私などは、書物でしかユダヤ人のことを知らないが、とにかく嫌われているのは事実のようである。日本人はどちらかと言えば親ユダヤ的なところがあるように思っている。

 「ハイデガー」は戦後も脚光を浴び続けて20世紀最高の哲学者と言われるまでになるのだから皮肉なことである。一方で迫害されたユダヤ哲学者は忘れ去られている。

 戦後15年ほどを経てから、ユダヤ人虐殺の実行責任者であるアイヒマンが南米に隠れているところを逮捕され裁判にかけられた。残忍な虐殺者などとは思えぬ、普通の男にしか見えない姿に世界中が驚いたものだ。

 彼は上部からの命令によって粛々と業務を遂行したに過ぎないと弁明している。
 著者は「夕べにバッハを聞き、ゲーテを読みながらも翌朝にはガス室の勤務についている」そんな、何と形容したらよいのやらわからない、たとえ話も出てきたと言っている。

 現在も反ユダヤの伏流は脈々としてあるのだと言いきっている。それをメルケルさんをはじめ歴代の首脳が押えてきているのが実態のようだ。

 著者は、イボンヌ・シェラットさん、1966年英国生まれの哲学者、日本での翻訳出版が1914年12月、出版は白水社である。

by watari41 | 2015-07-04 17:39 | Comments(0)