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余日録


by watari41

武勇伝

 話半分、あるいは十分の一程度に聞いていても結構面白い話をする人がいるものである。同世代にそんな男がいる。

 地元の農業高校に畜産課というのがあった。知り合いの息子さんが、20年ほど前にその高校の科目は異なるが教員になった。畜産課では鶏の解体という実習があるそうだが、当時はもうそんな殺生はいやがられた時代である。新任担当教員は困ったという顔をしていたところに、その息子は、家のオヤジだったらやるよと、連れて行ったそうだ。
 そのオヤジも畜産課の出身なので、当時と変わらぬところに、同じ道具が置いてあったそうだ。鶏には大きな「じょうご」の如きものを被せて下を固定して逆さにして、首から頭のみを出す。そして首を包丁で切る。絶命し血の抜けた鶏を湯に入れて羽を取り除き、解体してみせたそうだ。
 現代のスーパーで売られているブロイラーなどは、これを自動化した工程でなされているのだろう。

 そのオヤジが高校一年生の時というから昭和30年あたりだ。3年生で豚の屠殺実習というのがあり、先生が一撃を加えたのだが急所を外れてしまい、暴れだして大変なことになったのだそうだ。困った先生は、やむなしと町内の精肉店に電話を入れた、丁度ご主人は外出中だったが、奥さんが一年生に屠殺を手伝っている生徒がいるからと、彼を紹介したのだという。
 授業中に呼び出された彼は、現場に行ったが相当に怖かったそうである。しかし、ここでやらねばと、出刃包丁で狙いを定めて心臓を一突きしたのだそうである。幸いにも事なきを得た。という話である。

 この話に尾ひれが付いたのだろうが町内中にたちまちにして広がった。当時はまだ地元暴力団も勢いのよかった時期であるが、彼が町を歩くと一目を置かれのだという。

 彼は当初、魚屋さんに就職したそうである。たちまちにして目利きになったそうだ。ずっと後年になり、老人会で旅行した際に、ヒラメの刺身を出されたのだが、これはマンボウだと言ったそうだ。味の区分が難しいのだという。旅館では驚き、それを当てられたのは初めてだと言われたとか。マンボウを実際に食べたことのある人などは、そんなにいることではない。

 私が子供の頃には、そんな武勇伝を持つ男は結構いたものだと回想している。昨日(12月1日)のEテレを見ていたらヒマヤラの断崖絶壁で蜂蜜を取る少年をやっていた。生業としてなのである。
 武勇伝を必要としなくなった世の中が幸せとも言えるのだろうが、やや寂しい感じもするのである。
Commented by schmidt at 2012-12-03 16:12 x
 今から20年近く前に住んだまちの市長さんがいわゆる役所のたたきあげで、何かというと、屠殺担当だったことを誇らしげに語っていたのを思い出しました。なんだか嫌な感じがしたものです。次の選挙で落ちてしまいました。
Commented by watari41 at 2012-12-03 21:19 x
 屠殺人というのは、たしかに嫌がれる職業なんですね。江戸時代までは、そういう職業を持つ一家が町外れにいたんです(絵図面あり)。昭和の初期までも、そこでは蛇などを殺して皮を剥いでいたとかの記憶位を持つ老人がおります。関西ではそんな職業を持つ人々が極端な差別用語(部落)で呼ばれているそうですが、東北では我々もあまり気にせずに使っていた用語なんです(部落対抗リレーとか町民運動会で普通に使ってたんです)。schmidtさんコメントをありがとうございます。
Commented by クオリア at 2012-12-06 20:57 x
人類が今 最頂点に君臨しているのだと記事を読まして頂き
強くおもいました。
しかし おごるもの久しからずで 人類大破局(ジオカスタトロフィ)が起きつつあります。不気味な時代にきたように思います。
Commented by watari41 at 2012-12-07 11:14
諸行無常、奢る人類久しからずと、農業新聞を眺めてましたら、イニシシ、さる、鹿などが大繁殖していて、農作物の被害が甚大だとありました。農村部では、時代が逆転してこれらにとって代わられそうです。クオリアさんコメントをありがとうございます。
by watari41 | 2012-12-02 12:48 | Comments(4)