大金持ちの矜持

 仙台の繁華街近くに斉藤報恩会ビルと自然史博物館があった。これは近々取り壊されて、NHK仙台の新しいビルができ、今は街の中心よりやや外れた感のある放送局が引っ越してくることになっている。

 もともとのビルの所有者である斉藤さんは、石巻市北方の大地主だった。酒田市の本間家はあまりにも有名であるが、それに次いで全国第二位の土地を所有していた。明治から大正にかけての当主である斉藤善ェ門さんは、財産は私のものではなく、神仏より授けられたものだとして公(おおやけ)に使うものだと考えていたのだからすごいものだ。
 大正12年に現在のお金に換算すると300億円を投じて、科学技術の振興発展にと斉藤報恩会を設立した。これには文部省の認可を受ける必要があり、お役所でも初めのケースであり、相当に面倒な手つづきがあったらしいが、斎藤さんは私財を寄付するにもかかわらず、黙々とお役所に通ったのだと言う。
 このお金で、東北大の八木さんはテレビのアンテナなどで世界的な大発明であろう八木アンテナを作って現代人に恩恵を与えた。等々、近代の発展に大きな貢献を果たしている。
 これを先例に財閥の三井報恩会などが後にできたのだとされる。

 この斉藤さんに、わが町から明治初期に北海道伊達市に移住した3千名近い方々がお世話になっている。北海道に移住完了はしたものの開拓資金に窮していたのである。現在のように政府や銀行が融通してくれるわけではない。困り果てた移住のリーダーである家老だった常盤顕充は、融資してくれるのは斉藤家しかないと決死の覚悟で石巻に出かけた。善ェ門さんは、上記の如き矜持を持った方なので、伊達家随一の名門たるところが、そのような状態とはということで、記録には残っていないが現在換算で100億円程度を30年の年賦で貸し付けてくれたのだという。それを満期の大正2年には利息をつけて、すべて完済したというのだからこれまたすごい。常盤さんは、その年に82歳で亡くなった。
 この話は後に、斉藤家に養子に来られた方から当町の方が伺っている。借用書もなかったのではなかろうか。

 これは、少し後年になるが、当町より小学校を出たのみで東京で昭和初期に土建業として大成功した阿部亀吉さんという方が、昭和19年に私財20億円(現在換算)を投じて宮城県の学術振興にと阿部報公会を設立したのである。しかし敗戦とその後のインフレでその価値がなくなってしまった。阿部さんは、それにもめげず、戦後は仙台での事業をはじめたのだが惜しくも50歳代半ばでたおれてしまった。

 偉人というのではないが、そんな昔の人たちのことを回想している。現代の大金持ちはどんな矜持を持っているのかと思う。
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Commented by ようこ at 2012-05-17 20:08 x
NHK仙台が斉藤報恩会ビルと自然史博物館跡に移転するのですか。まあ、仙台市に住んでいて知りませんでした。
斉藤報恩会のことはごくごく1部しか知りませんでしたが、こうして斉藤さんの話をブログで読ませていただくと、興味がわきます。
地元に貢献した偉人のことを、私は知らなすぎます。
また、教えて下さい。
Commented by watari41 at 2012-05-18 10:39 x
隣のプラザホテルも壊されて、その辺りに大きなNHKビルが出来ると聞いてました。数年前に現在のNHKを見学しましたが、オンボロなんですね。週刊誌の見出しでは、民放に対して一人勝ちのNHKなる記事がでてましたね。
斎藤さんのことも興味を持っていないとわかりませんね。科学技術の発展には過去のいろんな文物が必要だろうと物凄い数の品物を購入して自然史博物館としたのですね。現在はもう本町の方に移転したと聞いてました。ようこさんコメントをありがとうございます。
Commented by クオリア at 2012-05-23 19:04 x
現代のお金持ちとは全くちがいますね。
八木アンテナの研究費が個人からの寄付であったとは感動します。
良いお話で感謝します。
by watari41 | 2012-05-12 20:25 | Comments(3)